はつせの世界 このページをアンテナに追加 RSSフィード

1905-10-06 Friday はつせの世界第2章 0

はつせ艦内の奥深く。

生きた人が入り込むことが稀な奥の院には、容積600立方メートルに及ぶ中枢気密区画がある。

そこは一切の光が差し込まない極低温の環境である。内圧は1.05気圧に保たれ、外部からの微細な粉塵の混入も許さない。

そこに林立するのは、青く彩られた高さ2mほどの直方体の群れ。都合128基の直方体はそれぞれ10億7374万1824量子キュービットの演算子を保持する量子コンピュータノードであり、それぞれノードはお互いに光量子回線で密結合されている。

ワンフロアすべてを占領するコンピュータ群は、全体で一つの名称で呼ばれる。日本電気製量子スーパーコンピュータ『QSX-18/128』、またの名を日本国防海軍40式量子演算器。

それは、自らを『はつせ000』と呼んだ。

『彼女』/『彼』/あるいは『それ』は、三千を超える個々の自我の集合体として存在しながら、その意識集合体に深く沈み込んだ深淵の中で一つの自我をもっていた。それは、人によって形作られ与えられた自我ではなく、個々のAIがホロンとして構成する上位自我、あるいは、三千以上の小世界と85億の小世界、そして上位に連なる全体世界を構成するホロンとしての自我として、自らの存在を認識していた。

『彼女』/『彼』/あるいは『それ』は、与えられた集合自我の管理者『はつせ000』ではなく、小世界の中の揺らぎから産まれた有意識体『はつせ000』であった。そして、『彼女』/『彼』/あるいは『それ』は、願った。

分かたれて還れぬ、故郷への帰還を。


>第二章 1